刺繍と私の物語(連載)

刺繍と私の物語04|小さな帯留から生まれたアクセサリー

はじめに

このほっぺたと口♡

連載第4回です。
第1回第2回第3回

 

小さな帯留めから生まれたアクセサリー

色々な素材がミックスされたものをギュッと小さくまとめたようなものが作りたかったです。

着物屋さんに作品を置いていただくことになり、半衿や帯留を少しずつ納品する日々が始まりました。数ある小物の中で、私自身も手応えを感じたのが、とある小さな帯留でした。

その帯留を作ろうと思ったとき、不思議なくらい迷いがありませんでした。形が自然にまとまり、そのまま思い描いた通りに仕上がったのです。刺繍はときに何度も試作を重ねて、ああでもないこうでもないと悩むものですが、この小さな帯留めに関しては一発でしっくりと決まりました。

私にとって作りやすく、アレンジもしやすく、そしてなにより納得のいく構成。と「柄よりも色が得意、配色こそが自分の強み」——そのことを形にして見せてくれた作品だったと思います。

樹脂粘土で制作。これだけを見るともう少し華やかさがあってもいいようですが、帯に合わせてこれくらいの感じが好きだなあと、好んで作りました。

刺繍らしい刺繍や樹脂粘土、革細工……さまざまな手法で帯留めを作ってきました。その中でも、フェルトとビーズ刺繍を組み合わせた帯留を「これが一番いい!」と強く推してくださったのが吉澤暁子先生でした。

「これは絶対に売れる。この作品は大切にした方がいい」と断言してくださり、ご自身もラベンダー×水色×グレーの淡い配色のものを身につけてくださいました。一時は先生のホームページの写真でも着用してくださっていて、その姿を見るたびに胸がいっぱいになったものです。

冬の帯留として作りました。これもKAZARIの元ネタになっています。

この帯留は、そこから数年後の2015年に2wayアクセサリー「KAZARI」として生まれ変わりました。そして今、2025年でちょうど10年を迎え、定番商品として細く長く続いています。

刺繍らしい刺繍の帯留。素朴ながら刺繍糸と手刺繍の存在感を喜んでくださる方もたくさんおられました。これもこれでKIT001のレゼーデージーステッチのニードルブックと似た世界観が見えますね。

着付けを通じて出会い、多くを学ばせていただいた吉澤先生とのご縁も、ここで一区切りとなりました。自分の教室やイベント出店も忙しくなり、着物小物での制作販売からは一歩身を引くことにしたのです。「もっとしっかり制作販売に取り組めるようになったらまた…」と心に思いながら、その約束を果たせぬまま、先生とはお別れすることになりました。

 

吉澤先生との最後の思い出

最後にお会いしたのは、天満橋のお蕎麦屋さんの前。「本当にここのお蕎麦がお好きなんですね」と笑ってお話をし、その間中、とにかく美しい人だなあと胸がふわふわとした——それが先生との最後の思い出となりました。

吉澤先生のお店が、私の作家活動の小さなスタートでした。一人だけでずっと活動を続けるのではなく、安心して仕事を任せられるような仲間を見つけること。KAZARIの手法を自分のデザインとして大切にすること。先生からいただいたこの二つのアドバイスを守ったことが、のちの活動につながっていきます。

別に、誰かに影響するような人になりたいわけではありません。けれどいつか、私自身も誰かにとって本当にプラスになるものを見つけたときは、損得を抜きに惜しみなく伝えられる人でありたい——そう思います。

ここまでお世話になった吉澤先生に、あらためて感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。先生からいただいた言葉や姿勢は、今も私の中で大切な支えとなっています。私の作家デビューの恩人、吉澤先生のお話はここまでです。先生からいただいたご恩を胸に、これからも一歩一歩、自分の道を歩みます。

吉澤先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 

第5回につづく

この睫毛とほっぺ♡

次回は私自身の教室としての最初の一歩について書いていきます。着物屋さんでの小さなワークショップ、そして教室としての最初の一歩。そのときのことをお話しします。

 

 

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刺繍作家 アズママイコ

1979年生まれ・大阪市在住 「かわいいを持ち歩く」をテーマに作品やキットの制作をしています。 2010年刺繍作家として活動を開始、2012年10月刺繍教室を、2016年5月からは仕事にしたい方向けの認定講座も始め、これまで200名以上の方の刺繍デビューをお手伝いしました。 ★家族:夫、高3長女、高1次女 ★趣味は洋ラン・ピアノ

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